今回は、1967年(昭和42年)1月12日から16日にかけて、弘前市一番町の旧田中屋のホールで開催された「長谷川達温 ネプタ金彩見送色紙展」の話しです。

達温先生は、個展を3回、ねぷた絵展(ローを付けた通常のねぷた見送り絵等)を数回開いています。

個展は、それぞれテーマをもって開催したもので、今回の遺作展では1回目と3回目の個展を集中してとりあげます。

先生最初の個展は、この金彩見送色紙展(見送でありません)で、三国志や水滸伝をはじめ、江戸期の読本にまでその画材を求め、見送り絵35種類を長判色紙(27.2㎝×48.4)に描き揃えたものと「大版色紙(24.2㎝×27.2)の生首絵」「ねぷた行燈」「通常のねぷた見送りサイズで楽女」「屏風(衝立)殷の妲己」を展示して、「達温ねぷた」を決定づけたものでした。

なんといってもこの個展は、見送り絵を家の中でも飾れるサイズで、しかも初めて35種類も一堂に揃えたことで市民の目を奪い、寒中ながら連日大盛況でした。

かくいう私も、この個展を2回見学に行き、その後弟子入りをお願いすることになったきっかけとなった先生の個展でした。

とにかく何種類も見送り絵があって、しかも小さいサイズ(27.2㎝×48.4㎝)に統一されていて、当たり前ですがきれいに描かれていて、とにかく驚いてビックリしてしまったことが、私の記憶にまだ鮮明に残っています。

当時はまだSNSどころかカラー写真すら満足になく、記録が少ない時代でしたから、何十種類も一度に見れるということは11歳の私にはかなり刺激が強いもので、今こうしてブログを書いているのもこの個展があったからです。

今回の遺作展では、当時の見送り絵現物こそないものの、現存している墨書きの下描き(一部彩色済)から10種類程度と殷の妲己の衝立現物を展示します。

また、先生の母校「青森県立弘前高校100周年」の記念手拭を先生が描きましたが、今回原画の補修が終わったので、手拭現物(同校鏡ケ丘同窓会から借用)と共に初展示します。

今回は、個展の展示品から「笠屋三勝」と「楽女」をとりあげます。


以前この二つはこのブログでとりあげましたが、先生の遺作展で外すことができない絵なので重複することがあればお許しください。

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笠屋三勝

この絵は、達温先生が最初にねぷた見送り絵に採用し、以後晩年まで何度も描き続けたものです。

ねぷた絵の題材は、その多くが三国志や水滸伝ですが、先生はこの他にも江戸期の読本に着目し、暇を見つけては東京神田神保町の古本屋街を訪れ沢山の本を買い求めていました。

このため先生の蔵書も豊富で、三国志や水滸伝は当たり前で、三勝が書かれている「三七全伝何柯夢(さんしちぜんでんなんかのゆめ)」など多数の江戸期読本や当時の浮世絵等を図書館並みに揃えていた他、相当な読書量も誇っておいででした。

先生は、主に題材の主力を葛飾派の絵に置き、それが出版当時流行したもの、今風に換言すると当時のベストセラー作品をチョイスしていたようです。

これによって、ねぷた絵題材の範囲が飛躍的に広がった先生の功績は極めて大きいものがあると私は思っています。


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楽女

昨年私が取り組んだ、弘前大学と国文学研究資料館との共同プロジェクト「津軽デジタル風土記」の研究の元にもなったもので、今では当時先生の考えておられたことが良くわかるようになりました。

もう一方の「楽女」は、絵本通俗三国志に描かれているものをベースに竹森節堂先生が見送り絵にしたものが最初だと思います。

達温先生は、この楽女の絵を何度も何度も描いていますが、少しづつ改良した物をその都度発表して最後は「達温=楽女」と言われるほど自分の絵になされました。

前にも書きましたが、我々弟子たちは先生が存命中は、この楽女を描くのを遠慮していましたし、竹森先生も達温先生が師事された後この絵は、達温先生に任され描かれたという記憶がありません。

両先生にどういう取り決めのようなものがあったかわかりませんが、「竹森節堂ねぷた絵草稿」の本に竹森先生の楽女の下絵が掲載されていますが、これはミスチョイスでしょう。


今回の遺作展では、1976年(昭和51年)8月29日()に私(当時21歳)が模写した楽女の下絵に、達温先生から直接色指定して頂いたものが残っているので、希望する方にA3サイズにコピーしたものを来場記念としてプレゼントします。

当時の先生の楽女の下絵がベースなので、晩年のものに比べると少し硬い印象がありますが、「達温の弟子」がどのように指導を受けていたか、ねぷた絵を描く方には少し参考になると思います。

現物を見ると、とても細かいのに気が付くと思いますが、我々弟子が言う「先生は繊細だ」ということが少し理解できるのではないでしょうか。

あの日から今年で40年以上経過し私もいい歳になったので、今回先生の遺作展なので思い切って差し上げることにしました。

また、達温先生のねぷた絵写真(私撮影)をベースに「A4版クリアファイル」を制作したので、会場で販売します。数に限りがあるので売り切れの際はご容赦下さい。


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